日本や米国でにわかに話されている「陰謀論」などに、よくフリーメースンが出てくるが、私が知っているベルギーのフリーメースンとは明らかに違うので再度調査してみた.元々教典のようなものは無い上ドグマや信条、定説などを嫌う組織(ベルギーでは)であるが、調べてみると実に様々な歴史や解釈などがあることに驚いた.ここには簡単な世界のフリーメースンのことと、ある程度詳しくベルギーのフリーメースンのことを明記する.昔数名のベルギーフリーメースンが友人(現在は全員他界している老人)だったことと、数週間前に初めて今年オープン

Noro153+EN2011-10-26


フリーメースンとは:
多分簡単に言うと、ライオンズクラブロータリークラブのような集まり.この二つは約100年前に米国で企業人によって作られた(ビジネス関係)団体だが、フリーメースンは記録に残っているだけでも300年以上(ある記録からは千年以上)の歴史をもった、人類の繁栄を追求する団体だ.ライオンズクラブなどと同様にチャリティのようなことをするグループや意見交換をするグループがあったりする.ライオンズクラブなどは、自分たちの作ったものや功績を惜しみなく表に出し、披露することにも熱心だが、フリーメースンが広まった時代は思想的に自由でなかったこともあり、表にはほとんどでないことが伝統のようになり誤解が生まれ易くなった.

フリーメースンという言葉の定義:
メースンという意味は、「熟練したレンガ・石積み職人」のことだ.そしてフリーとは教会や貴族などの権力者たちから独立した、奴隷ではない「自由の身」であるいう意味.中世欧州はキリスト教会と貴族が社会のほとんどを牛耳っていた時代で、様々な技術を持った職人たちが組合を作り、自分たちの独立した立場や貴族や教会などの権力支配からの自由を守っていた.特にレンガ積み職人は、キリスト教会が教会や大聖堂を作るにも貴族がお城を作るにも高度な技術を持った職人が必要とされていたので、職人組合の中でも高い地位と自由が与えられていた.レンガや石を積むという高度な技術を持っていた職人は、当然数学や科学にも精通していた.欧州各所の「フリーメースン組合」は連絡を取り合い、腕の良いレンガ積み職人たちは、お城や教会を作る為に欧州各地を移動し、様々な建築家たちとの共同作業や社会見学をすることでより多くの知識や技術を身につけることとなる.

簡単な歴史:
英国で最古のフリーメースンに関する文書は、King Athelstanによって10世紀に「欧州大陸から持ち込まれた」という.フランスのフリーメースンの歴史を読むと、17世紀にスコットランドで「フリーメースンのロッジ・グループ」が組織されていたようだ.起源というのは、レンガ積み職人の組合と建築家たちに他の学問や学識のある人々が加わり「人類の繁栄」に何ができるかを議論した、ことから始まった.社会では宗教が力を持っていた時代なので「自由な発想」を持つことは迫害の対象になったり、社会生活では障害でもあったので、大っぴらにすることははばかれた.歴史上のフリーメースン有名人はゲーテモーツァルト、ヴォルテア、ルーズベルト等がいる.

英米型と欧州大陸型フリーメースンの違い:
フリーメースンは、元々書かれた聖典のようなものもない上ドグマを嫌い自由な思考を追求した結果、正式な歴史も存在しない.18世紀に広がり19世紀には徐々に英米型と大陸型のフリーメースンは、決別し更に違う方向へ行った.大陸型は1789年のフランス革命から人権が追求されると、それまで「どの宗教でも良いから神を信じることが基本」であったが、「無神論懐疑論、精神は肉体から離れては存在しない」などと考える人々も加えることにした.初期の頃の欧米では「全ての宗教」とは、回教、ユダヤ教キリスト教の沢山の枝分かれした宗派のことで無神論は論外であった.フランスやイタリアなどの欧州大陸では、18世紀には無神論も議論できる自由な雰囲気があった.同時に大陸型は女性の参加も認められるようになった.約150年前のことで、現在でも英米のフリーメースンは「神または超自然の何かの存在を信じる」ことが条件になっている.英国では女性の参加が議論されるようになったのは1999年だそうだが、現在でも女性の参加は認められていないようだ.英米がメインとすると、大陸型のフリーメースンは、反ドグマ的フリーメースン、自由なフリーメースンと呼ばれるようになった.(欧州大陸型のフリーメースンは少数だが北アメリカにも存在するそうだ)ほとんどの欧州大陸のフリーメースンはこの「自由なフリーメースン」の集まりとなっている.

世界で使われているフリーメースンのシンボル:
世界中のフリーメースンのほとんどが、コンパスと直角定規のシンボルを使っている.元々ドグマを嫌う団体なので、このシンボルの定義はしていない.それぞれが解釈すれば良いことになっている.このシンボルを使いフリーメースン思想への手ほどきを受けることもあるようだ.私個人の解釈は「昔からの迷信や根拠のない説をそのまま受け入れるのではなく、必ず(コンパスや定規などで)科学的に立証されたものを通して世の中を考える」.英米ではこのシンボルの真ん中に「G」という文字を入れている場合もあるが、同じように定義はない.Gは神・Godの頭文字とする人もいれば、幾何学・Geometry の頭文字だとする人もいる.

ベルギーのフリーメースン歴史:
ベルギーの国ができたのは、1830年で、最初のフリーメースンのロッジ・グループの記録は1721年というから歴史は古い.当時は欧州全体のフリーメースンが繋がりを持っていたが、後にフランスと同様に更なる自由を求め英米とは決別している.1831年に施行されたベルギー憲法はフランスの憲法を元に作られたが、より人権を強調し、自由な憲法として有名だった.(後にデンマークやオランダの憲法にも影響を与えた)

現在のベルギーフリーメースン:
2011年3月にブリュッセルの中心部に「フリーメースン博物館」がオープンした.目的は誤解をとき、沢山の人々に歴史や活動を知ってもらうためという.私が訪れたときには、現在のメンバーと話をすることができ、とても興味深い話が聞けた.例えば、フリーメースンのカレンダーがあり、新年は3月だという.普段私たちが何気なく使っているカレンダーはキリスト教のカレンダーだ.その人の話によると、表向きにはカトリックとしながらも、ほとんどのベルギーフリーメースンは「神の存在を信じないか、懐疑論者」だという.ベルギーのフリーメースンの活躍は、ナポレオン支配の時代に強化され(ナポレオンが率先したという)その後1830年にベルギーの国ができ、最初の王様・レオポルド一世もベルギーに来る以前にスイスでフリーメースンとして入門手ほどきを受けたという.実際にその王様は、ベルギーフリーメースンの最高地位をオファーされたが、それは一番の親友に譲りその人は死ぬまでその地位にいた.



とても興味深いのは、国が出来る前(宮殿や国会もない時期)の1782年のブリュッセルの地図には、フリーメーソンのシンボルをかたどった公園があり、現在でも同様にあること(もう一つの写真は現在のグーグル地図のスクリーンショット).コンパスと定規の公園が「ブリュッセル公園・Parc du Bruxelles」.現在はコンパスの上の部分に国会や省庁などがあり、二股に広がった部分には宮殿がある.(私の個人的解釈は、国会が王室を仕切る)余計な話だが、国が出来たときに何人かの欧州貴族に「ベルギー王」の地位をオファーし、結局ドイツの貴族が承諾した.「ベルギーの王様は雇われ王様で、世界一貧乏な上いつでも首を切られる」という可哀想な王様だ.

ベルギーのフリーメースンが社会に貢献したことは沢山あるが、早いうちに教育をカトリック教会から離したこと.現在でも半分はカトリックの教育だが、どんな小さな村や辺鄙な場所でも必ずカトリックでない(無宗教または無神論を含めた全宗教)教育が受けられる体制になっている.国ができるまでは大学はカトリック大学だけで(ルーバン、ゲント、リエージュ)しかもブリュッセルには大学は無かった.フリーメースンの努力により、独立から数年後には「ブリュッセル自由大学」が作られ、宗教とは無縁の教育が始められた.

聖職者たちに力や権限を持たせないという運動も盛んに行なわれた.フリーメーソンのメンバーには沢山の反聖職者権力の人々が誘われた.それが理由なのか、ベルギー最高峰の大聖堂も中心部ではなく変な場所にある.

1907年には、それまでバラバラであった世界のフリーメースンの史上初の世界大会がブリュッセルで開催され、25カ国中21カ国のフリーメースンが集まった.それ以降数年に一度欧州各地で開催されていたが、現在は不明.

第一次世界大戦では、ベルギーはドイツに占領され、大量の労働者が強制的にドイツへ連れて行かれたが、その時にもベルギーとドイツのフリーメースンの話し合いや努力である程度の被害を防ぐことができたが、ベルギーフリーメースン最高地位にいた人物はドイツ軍に捕虜にされた.第二次世界大戦でもベルギーはドイツに占領された.この時にヒットラーユダヤ人と同様にフリーメースンも捕虜収容所へ送り、同様にガス室送りにした.数万から数十万の欧州中のフリーメースンが殺されたという.現実に終戦後ベルギーのフリーメースンは、戦前と比べると4分の3になったという.4人に一人が殺されたことになる.多くのフリーメースンは英国へ渡り、レジスタンスになると同時にフリーメースンとしての活動を英国で続けたという.私の知っていた数名もこのレジスタンスだった人たちだ.

もう一つベルギーのフリーメースンの活躍で有名なことは、人権活動だ.1912年にできたロッジ(グループ)で世界の人権活動団体との連携で様々な人権問題を扱っている.(ブリュッセルから「国境の無い弁護士団」というNGOもここから生まれている)
http://www.droit-humain.be/en/conv.htm


ベルギーは建国から第二次大戦ごろまで、英国に次いで世界第2の経済大国であったが、これもベルギーフリーメースンの活躍するところが大きい.ほとんどの有名建築家(アールヌボーやアールデコで有名)やアーティスト、産業革命で沢山の機械類を発明した人々、科学者や技術者・・・.戦後はフリーメースンの人口は増えること無く、現在に至っている.知り合いだったフリーメースンから聞いた話は、それぞれのメンバーが知っている人で新しくメンバーになるのに相応しい人を推薦し、他のメンバーたちが審査をする形を取っていた.現在はメンバーになりたい人は、自分の思想やフリーメースンについての論文のようなものを送り、審査や話し合い、面接などが行なわれるらしい.

ベルギーのフリーメースンは:
declaration:宣言
which adhere fundamentally to the principle of absolute freedom of conscience;
絶対的に完全自由な道徳心の原理に忠実であること
which are convinced that the social, moral and intellectual liberation of men and women will be the result of an unending struggle against dogmatic limitations, sectarian forces and ideologies that violate adogmatic freemasonry;
人間の社会的、道徳的または知的な自由(解放)のために、教義や定説の限界、派閥支配、反独断的フリーメースンに反対する思想、に終わりの無い闘いを挑む心構えを持っている
whose devotion to the principle of equality is unshakeable;
平等主義の原則に献身することに揺るぎがないこと
which are conscious of the fact that the idea of democracy and the defence of a secular society are the essential foundations of organized society,
民主主義と非宗教的な社会が、社会の根底にあることが社会組織には必要不可欠であると自覚していること


the Belgian adogmatic Freemasonry is inspired by the following principles:
そして、ベルギーのフリーメースンは次のことに影響されている
the practice of initiatory work and the use of methods based on symbolism;
シンボルを使用した入門手ほどきの実行
the pursuit of the improvement of man in all areas;
人類のすべての分野の繁栄のための追求
the defence of freedom of conscience, freedom of thought and freedom of expression;
自由な道徳心、自由な思考、自由な表現を守ること
the endeavour to achieve harmonious relations between all men and women by trying to reconcile opposed opinions;
すべての男女間の関係が平和的になるために対立する意見を仲裁する努力
the rejection of dogma of any kind.
すべてのドグマを否定する
(下手な翻訳ですみません)

さて、最後にまとめとしてフリーメースンを考えてみたい.上で説明したように、ベルギーではフリーメースンの悪いイメージは全くない.どちらかというと「高尚すぎて近寄りがたい・・」という印象が今まであった.その意味で「博物館」が作られ、もっと歴史や活動を知ってもらいたいというのが本音であろう.私が「友人」と書いた人々は、元夫の友人たちで元夫をフリーメースンに誘おうとしていたので、私の前でもフリーメースンの話をしていたが、秘密で隠すのではなく、謙虚であることで自らはそう言う話をしない、と私は理解している.
本日はまたフリーメースンの博物館で待ち合わせがあるので、また何か別のことがあればフリーメースンのことを日記に書きたいと思う.

http://www.mason.be/en/index.htm