昨晩ベルギーの国営第一放送で「経済とお金」の番組をやっていた.その中で「自発的に行なう質素生活」をする人たちを紹介していたが、すでに何千もの人々ができるだけお金を使わない反消費主義の生活をしているという.

Noro153+EN2011-09-22


様々な意見を持っている経済学者や大学教授のインタビューで驚いたのは、はっきりと「消費・資本主義を否定」する教授たちがそれに沿った授業をしていること.共通している考えは「有限である地球資源を基に、無限に利益を追求する大量消費の資本主義を成立させることは不可能」という思想だ.

貧乏だから質素な生活を余儀されるのではなく、上記の思想のもとに消費は最小限にして生活の質を向上させる生き方をしている人々が多いことは、非常に元気づけられた.

ある建築設計を生業にしている人は、元々持続可能でエコな家や建物の設計をしているが、娘達が成人すると完全に「反消費主義生活」へと移行した.庭で小麦を始めほとんどの食糧を自分で作る.寝る前に必ずすることは、翌日に焼く為のパンの小麦をひくこと.生活する為の仕事(畑仕事など)を優先するので、金のための設計の仕事は極力減らし、自転車移動でできる仕事だけをしている.必要な家具も自分で作っているそうだ.

ベルギーの南部の都市リエージュに近いところでは、反消費主義の集落がある.クルマや必要機器を共有し、協力し合ってできるだけ消費しない、循環でき持続可能な生活をしている.水を使わない「ドライトイレ」というのは初めて見たが、人間の廃棄物も野菜を作る為の肥料にしている.肉や乳製品のための家畜は環境には最悪である、ということから当然菜食だ.そこには「貧相さ」は全くなく、生活を楽しんでいることが充分に感じられる.

以前ベルギーで生活していたころは、人口数千人の村に住んでいた.ブリュッセルの中心部から30キロ南のとても裕福な人々が住んでいるところだが、節約主義は同様に感じられた.だからベルギーは元来日本やアメリカのような極端な消費主義は、根付かない国だと思っていたが、最近の海外からの移民や労働者とされる人々の消費が凄まじい.例えば貧しい国からベルギーに来て少し働くと何でも「カネで買える」、働かなくても生活が保障され、そのお金で高度な消費ができるので「金持ち」になった気分を味わえる.「経済のグローバル化」でこのような人々をターゲットにしたビジネスが、私がいなかったこの10年ぐらいで蔓延ってきたように感じられる.以前からあった巨大スーパーでは、日本の「百均」と同様に1ユーロコーナーで同様のモノが買える.昔はこんなことはあり得なかった.安いモノが溢れている光景も昔はあり得なかった.21%という高い消費税や社会保障として取られる税金は相変わらず高い上、人件費が高いので当然のごとく品物は高額であった.このような理由でベルギーでは「モノを大切にする」思想は、大昔からずっと変わらずに続いていたが・・.

この国のように短期間に大量消費主義社会になっていく現状を目の当たりにした人々は「どこかが間違っている」と考えずにはいられない(同時に地球環境の破壊、人口爆発などが問題になっているので).そして昨晩の番組のように昔、普通に「モノを大切にしつつ普通に消費をしていた」沢山の人々が「反消費主義」へと移行している.

経済・エコノミーという(欧米の)言葉は同時に「節約」という意味もある.有限の資源を節約しつつ、文化や生活の質の向上を考えるのが「経済学」ではなかったのだろうか?

アメリカや日本では今でも「大量生産と大量消費を推進」している.オバマ大統領の最近の演説でも「メイドインUSAを世界中に売りまくることで、雇用を増やし、再び世界一のアメリカにする」ことを強調していた.メイドインUSAを生産するには、外国から資源を調達(環境破壊)しなければいけない.今までも資源調達にはずるい方法で後進国から奪い取ってきた.資源を持っている後進国の人々は蔑ろにされ、30年、50年前の生活水準以下の生活を余儀なくされている.それを更なる卑怯な方法、弱肉強食で見殺しにするつもりなのだろうか?そしてすでに持っているモノを捨てさせ、新しいモノを買わせる・・・モノを買う為に奴隷のごとく働かせ、モノを買う為に借金をさせる.借金を払うために働き・・(という抜け出せないスパイラルにはまる)

ベルギーが1830年にオランダから独立した最大の理由は、(オランダ領であったのは数年)オランダがベルギーにあった森林をほとんど全て丸裸にするほど森林伐採をし、その木材資源を自国へと持って行ったことにある.沢山の犠牲を出した独立戦争だった.その後ベルギーは、英国に次いで世界で二番目の経済大国になったが、それはベルギーの植民地(コンゴなどの中央アフリカ)の資源で裕福な国になったことは、みなが自覚している.ベルギーは「植民地化され被害を被り、他の土地を植民地化してその富を奪い取った」という歴史がある.

2000年少し前から「経済のグローバル化」の名の下に多くの米国多国籍企業が、EUの首都であるベルギーは「利益を産む条件」が揃っていると判断し、土地の買収を始めた.昔住んでいた村も入る「ブラバントワロン」というブリュッセル南部の地域は、丁度東京23区を除いた3多摩地区と同面積ぐらいで、人口は3多摩の10分の一以下の35万人ほどだ.美しい自然がありブリュッセルに近いこともあって「多国籍企業」がここに狙いを定めた.ここを「開発」し、様々な観光施設やホテル、ビジネスパークや工場などを作る計画に素早く気付いたある人が、沢山の地主、村長、町長や有識者などを集め、米国や多国籍企業には絶対に土地を売らないし貸さないという抵抗をした.これが成功し、お陰で今でも素晴らしい自然と穏やかな生活(上の写真はその地域)が保障されている.例えば、元々あった欧州IBMの本部もブラバントワロンにあるが、その膨大な土地や建造物のほとんどは米国ホテルチェーンに売却され、森の中にある高級ホテルとして細々と営業している.そうでなくともベルギーの市町村の建築基準などの条例はとても厳しく、利益優先の企業が勝手なことはできないようになっている.

環境汚染のない、きれいな空気と水と生活の質の向上や自然環境を優先するか、果てしない利益追求の資本主義経済を優先するか・・・相反する二つの思想を同時に追求することは、完全に不可能だということが解ってきた.あなたならどちらを優先する?