数ヶ月前にベルギーで「公共の場でのブルカ(アラブの女性が顔を隠す為にかぶる衣装)禁止」の法律が施行された.何年もの間議論され、昨年議会で可決された法律で世界で二番目(最初はフランス)の施行となった.

Noro153+EN2011-09-21


ベルギーにいるほとんどの回教徒の女性は、ヒジャブと呼ばれるスカーフで髪の毛と首を隠すぐらいで、顔は出している.目以外は隠すブルカ禁止の法律に関係する女性は30人程度だと言う.私自身は見たことはないが、施行当日か翌日には数名が逮捕され、罰金刑になったニュースを見た.その時にフランス在住のアラブの富豪が(将来でも)この法律で罰金刑を受けた女性たちすべての罰金を払うと主張し、話題となった.そしてその富豪は、フランスとベルギーを「人権侵害でオランダの人権裁判所へ訴えた」ようだ.

フランスは100年以上前に出来た「宗教をアカラサマに見せつけるシンボルを身につけてはいけない」という法律の延長線として、ブルカ禁止の法律を可決施行した.その1905年に施行された法律の目的はキリスト教会から学校教育を引き離し、宗教とは関係ない教育を推進する為のものだったようだ.


ベルギーの場合は、ブルカやスカーフで通ってくる女生徒がスポーツの授業に弊害があったり、化学の実験でブルカやスカーフに火がついたりしたことが議論の発端となった.最近のテロの危険性から「アイデンティティ(顔)を隠す洋装は禁止」が名目上の理由.その裏には「回教徒の女性を解放する」という人権団体や弁護士たち、一般市民の思惑があったはずだ.十数年以上前に見たテレビ討論会では、ベルギー在住の数十万人の回教徒女性のスカーフも禁止したいという話があったが、さすがにそこまでは行かなかった.

ここで非常に難しい問題は、身につけるものの自由を訴える人々と、顔を隠すという文化は女性の人権や自由を奪っていると考える人々がいて、そのような他所の伝統文化をどう捉えるかだ.ブルカやスカーフの回教徒女性にこの話をすると、まず全員が「強制されているのではなく、好きでかぶっている」という答えが返ってくる.その時に他の文化の人々が「あなたは洗脳されているだけ、ブルカやスカーフはあなたの人権や自由を奪っている」と説得すべきだろうか?

30年ほど前にベルギーで航空会社に勤務していたころ、同期でとても仲良くしていた日本人女性が、突然「結婚するので仕事を辞める」と言った.その女性は「おてんば娘」という言葉がお似合いの活発でスポーツ万能、バリバリのキャリアウーマンタイプ.それなのに、(日本人)結婚相手が勤めている日本の某大企業の社則では、奥様達が仕事をすることを禁止しているからと言う.私は心の中で、なぜそんな女性蔑視の会社に勤める人と結婚なんかするの、と思ったが、口には出せなかった.その上彼女の話では、日本の一流企業はみなそうなのだとか・・・ 現在はどうなのだろう?

横浜で飲食店を経営していたころ、時々サラリーマン風のグループが来ていた.そして必ずその中の女性がコマメに動き全員の面倒をみつつ「お酌」をしていた.ある時見るに見かねて「なぜあなただけが、お酌をしているの?」と訊ねたら「好きだからやっているのですよ」という答えが返ってきた.何となくどこかで聞いた答えだ.

その飲食店があった横浜の野毛という飲食街は、戦後の闇市から始まり1970年前後をピークに廃れるだけの地域だが、数百軒の飲食店がひしめく現在でも横浜最大の飲食街だ.そこへ舞い戻り気が付かない内に、町内会のメンバーになってしまった.年に二回大きな集まりが催された.横浜では重要な場所なので、市長はじめ役所の局長たちや政治家たちが招待され、スピーチをする.数百人の正式町内会メンバーの中で私が唯一の女性だったこともしばしばあった.他の女性参加者はみな接待係だ.(私は一度も接待係はしていない)ある参加者に「天井に張り付いてこのドブネズミたちの写真を撮りたい」と言ったらもちろん主旨は解ってもらえなかった.あの(男性だけという)光景を普通だと思うのは多分日本人だけだと思う.

日本の男尊女卑は何年も前から、外の世界では話題になっている.ただ、回教徒のスカーフやブルカと同様に「他文化の人間が批判しても・・」というように微妙な話題だ.スイスにある世界経済フォーラムというところが、数年前から「男女平等指数」という統計を年に一度(11月初旬)発表している.日本は2006年には調査対象が100カ国未満中79位、その後調査対象国が増えるにつれてどんどん順位が下がり、確か最低は140位台、最近は99位ぐらいになったと記憶している.何しろ日本にとって恥ずかしいニュースは日本のメディアが取り上げない.

ある時の国連の人権委員会の調査で、世界の人身売買「日本が第二位」となった.そして日本の最大の拠点が横浜の野毛に隣接した地域だった.大岡川沿いの昔からある「売春街」だ.当時の横浜市長は慌ててその地域を一掃したが、問題は何も解決しない.何しろ暴力団と警察が関わっている.その後も少し場所を移動し、相変わらず白人やアジア人の「タチンボ」たちが沢山いた.その女性たちは多分騙され、日本に来てしまった人々.日本にはそのような人たちを救出する人権団体はまともに機能していないようだ.

話は変わって、アフリカのある地域で女性性器削除という伝統文化がある.それが昔から続いている伝統であるからと外の世界の人々が目を瞑ることが正解だろうか?南アフリカのズルの地域では、十代後半の若者達が成人になる儀式として、40人同時に一匹の雄牛を素手で(非常に残虐なやり方で)殺すことが伝統行事だ.この場合被害者は牛なので、動物愛護団体が異議を唱えることできる.

話を日本の女性蔑視の社会に戻すと、これは日本社会にとって非常にマイナスになっている.外への顔としてではなく、優秀な人材確保という観点からだ.幼稚園から大学の先生、企業の入社試験官までが認めるように、日本の女性は世界標準以上にできが良い.某大手IT企業の入社試験を担当していた人から聞いた話では、ITエンジニアという一見男性職に思える業種でも男女差なしに試験をしたら女性が9割以上になってしまうので、男性には下駄を履かせてバランスを取っているという.それは大学入試でも同様だということは沢山の大学関係者から聞いた.いくら女性を下に置いておくことが伝統でも、今の世の中では優秀な人材として女性が普通に活躍できる社会でないと世界から取り残されてしまうのではないだろうか・・・