日本ではこの10年ぐらいでタケノコ山のようにNPO法人が増えた.起業のための簡単な近道としてのNPO法人、と考える人も多いのではないかと思うほどだ.

Noro153+EN2012-01-01


しかし、私が実際に良く知っていた横浜の幾つかのNPOは、何となくみな如何わしい、と思わざるを得ない雰囲気を醸していた.情熱を持ってやるというより、「助成金やカネ目的」で、やることすべてがインチキ臭い.と思っていたところ、最近こんな記事を読んで、私が感じたことも満更間違っていたわけではなかった.まともなNPOやその他の非営利団体も沢山あるだろうが、印象として「インチキ」というのはとても残念だし、またここにも日本独自の隠蔽、インチキ工作、利権、法律の抜け穴、助成金詐欺などの温床が・・・

ネットで「朝生」を見た.もし福島原発事故のようなことがここベルギーで起っていたら、あのような議論にはならない.ベルギーの社会構造を考えつつ見ていて、その違いを考えてみた.

ベルギーが541日間に渡り、無政府状態(ギネスの世界記録)であった時も「国民生活がとても巧く回っていた」のは、ブリュッセルだけで5〜6千以上あるであろう非営利団体と4つある地方行政が大変良く機能しているから、と言っても過言ではないと思う.

ベルギーでは政府や行政の手が回らないあらゆる分野を、非営利団体が代わりに責任を持ってやっている.多分日本でもそのような役割を持った非営利団体はあるだろうが、ベルギーではそれが浸透しとても巧くいっている.世界でもトップクラスの福祉国家と誇れるのもNPO非営利団体が大活躍しているからだ.ほとんどの非営利団体は社会でも信用され、尊敬される存在でもある.役人が「お役所仕事」でやるより、そのことに情熱を持っている人たちがやるのとでは結果として大きな違いが出る.

以下の統計はネット上で見つけた数年前のものだが、ベルギー、オランダ、アイルランドなどと日本の非営利団体のある程度の比較が出来る.

この統計が示すように、公益非営利団体は税金や様々な財団などからの資金援助を主な収入源としている.

最近このような公益非営利団体で有給職員として仕事をするようになり、詳しいことが解ってきた.その非営利団体は主に承認された難民の面倒をみるための団体で、有給職員100名、無給ボランティア50〜70名ほどで成り立っている.私の給料も別機関が9割、その団体が1割を出している.ある同僚は半分をフランス語圏政府が出し、半分は1年契約でその団体が出した.70%ほどの職員は何らかの別機関から給料が出ている.団体の総収入の85%は、幾つかのEUの機関、ベルギー中央政府ブリュッセル政府、フランス語圏政府、オランダ語圏政府などの公的機関からの助成金.残りは個人や別の非営利団体などからの寄付がほとんど.ボランティアと言ってもリタイヤしたEUの職員、国連難民高等弁務官事務所にいた人だったりと難民問題に情熱を持って取り組んでいたり、人権問題をやっていた人だったりととても意識の高い人々が真剣に働いている.

ブリュッセルには「難民」関係の非営利団体がいくつかあり、それぞれが難民問題に関して違う仕事をしつつ、連携し協力し合っている.国連難民高等弁務官事務所シレ(フランス発祥の難民の人権を守る)欧州難民救済事務所アムネスティインターナショナル、外国人の人権を守る会、欧州人権同盟等少なくとも25の非営利団体と協力連帯している.ベルギーは毎年2万近くの難民申請があるが、承認されるのはその内2千数百人(何度か再申請が許可されている.未承認難民については別団体の管轄だ)

私が仕事をしている「コンビビアル・共存」という団体はその中でも実際に難民の生活福祉などに特化し、様々な講座を開いたり、食糧銀行、家具や生活必需品、衣料の無償提供、仕事探し、アパート探しなど全ての援助を行なっている.約3千平米もある建物は電力会社が使用していたもので無料で使わせてもらっている.無料にすることでその電力会社はかなりの税金が免除されている.巨大な家具置き場、舞台のあるイベントホール、難民問題を一般の人々に紹介する為の展示室、パソコン教室、木工所、各種教室、外には有機野菜の小農園施設まである.例えば展示室は上記シレの資金援助で実現.食糧銀行はEUからの支援物資で賄う.パソコン教室の設備はパソコンの普及に特化した別の非営利団体からの寄付.というように沢山の組織が複雑に絡み合い協力し合っている.


私の部署は、文化と広報.様々なイベントを考え難民をベルギー社会に馴染ませ、同時にベルギー人に難民問題を知らせること.3名でこの仕事をしている.二部屋続きの別室には二名が「ベルギー生活」のすべてを教える講座を主催している.実は生まれて初めて普通のサラリーマン生活を高齢になって始めたが、やっと天職にであったような感じだ.ベルギーには人種差別、性差別、年齢差別などが一切ない、というか法律で禁止されている.だから私のようにすでに高齢にはいる人間も若い人たちと同じ土俵にたてる.(有利だったことは二つ.一つはシーシェパードで反捕鯨活動をしたこと.もう一つはMacでデザインや紙面構成などが得意なこと)

さて、日本はあらゆる分野で腐敗、汚職、ねつ造、癒着、偽装などが簡単に行なわれているが、ベルギーは法律やルールは絶対に守るし、守らせる仕組みがしっかりしている.例えば、別の非営利団体があり、そこから社会の弱者用のチケットが送られてくる.「Article 27」という名前のチケットで、難民はこれでまずほとんどのブリュッセルの映画館、演劇、美術館、博物館、コンサートやイベントに€1.25、約125円で入れる.この「Article 27」という名前のチケットを発行することだけをやっている同名の団体は、世界人権宣言の第27条:

1. すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。
2. すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。

だけを追求し、実践している.それぞれの文化施設や文化団体などと交渉し、弱者(難民だけではなく、彼らが認定した全ての弱者)が月に最高2回好きな時に好きな文化を楽しめるというシステムを作り出した.これはベルギー中に広まり、小さな町でも同様に安い値段で弱者が文化を楽しめる.数ヶ月前まで、毎月分厚いリストを乗せた冊子を出していたが、数が膨大になりネット上だけになった.チケットは一月間有効なので、仕事を始めたばかりのころ、余ったら貰いたい、なんて甘い考えを持っていたが、これは不可能であることが解った.まず印刷されたチケットだけでは有効ではない.欲しい人は半切れに名前を書き、こちらはバーコードのあるスティッカーをはり、担当者がサインをする.そしてパソコンにすべてを登録する.

ある時同僚が考えた「ベルギー人と自然科学博物館へ行こう」というイベントに同行した.20人ほどの難民はこのチケットでそれぞれ125円を払い、自由参加のベルギー人は普通に自分の入場料を払う.私と同僚の普通の入場料(各約800円)は経費で払われた.要するに私たち関係者さえも使えないようになっている.「Article 27」の団体はそれぞれの文化施設からそのチケットを回収し、どこの団体がどれだけ、同一人物が月に何度使ったかなどをすべてチェックし統計としてまとめる.そこには一切のインチキができないようになっている.見事だ.

もう一つ「法律やルールは絶対に守る」という話.
ベルギーは週37時間が法律で決められた(許された)フルタイムの労働時間だ.我が組織としては金曜日は13時に建物全ての鍵をかける.週に4日半働く.朝は8時から9時の間に到着し、午後5時から6時に退社する.朝の8時前に出社した分、午後6時以降の労働.昼食もカウントされない.カードをかざすだけのデジタル化で、出社時間などが自動的に中央のコンピューターに登録される.37時間という労働時間は週に1時間、月に3時間以内のプラスマイナスは許されるが、一年で15時間以上のプラスがあると雇い主と雇われている人、両方ともが罰せられる.「これだけは充分に注意し守ってくれ」と最初の日に言われた.人より長く働くから偉いとか、5時に一番先に退社するから怠け者とかいう感覚は一切無い.短い限られた時間にすべてをやるので、こちらの人の効率の良い働き方は、ベルギーの会社に入らなくても良くわかる.

「コンビビアル」が密に関係を持っている別の非営利団体は、ベルギーの憲法23条「ベルギー国内のすべての居住者は人間としての尊厳を守られる暮らしが保障される.そのために適切な場所に住む権利がある」ということを基盤に活動している.「コンビビアル」はある匿名者からの寄付を基にブリュッセルに7アパートが入る建物を持っている.ここは原則6ヶ月間を限度に経費だけで難民を住まわせている.この間に一般のアパートを捜す手伝いもするが、この「住居に特化した非営利団体」がとても協力してくれているという.因みに我が団体所有の建物を見にいったが、素晴らしい建物で内心「こんな贅沢な場所に・・」と感心した.日本のドヤなどは「憲法違反」になってしまう.

私の仕事場は3千平米もあるので、いくつもの空っぽの部屋もある.緊急事態の時には数百人が寝泊まりできるようになっているという.そしてそのような緊急時には、ベルギーの赤十字(一番古い非営利団体)やいくつもの非営利団体がそういう緊急時に寝泊まりさせる場所を確保しているので、協力体制が出来ている.

ブリュッセルにある19区はそれぞれ非営利団体が区内の困っている人々にあらゆる生活の手助けをしている.ある時に知り合った女性が私の住んでいる区でその非営利団体で仕事をしているので、詳しく教えてもらった.主に高齢者、身体障害者への手助けだが、区内ではだれでも利用できるという.掃除、電球取り替え、引っ越し、買い物、などの細々したことに対応する.社会の弱者たちにはほぼ無料、一般の人々には安い価格が設定されているという.このように利益追求企業と真っ向から対立するような団体も沢山有る.

市民の生活に関するありとあらゆる分野のきめ細かな専門の非営利団体が5千以上あり、それぞれ、その専門分野の達人が憲法、法律、条例、国際条約などを基盤に市民の生活をより良いものにするために働いている、動物の権利も同様だ.だから、昨晩発言した被災者の「だれの言うことを信用してこの先どう行動したら良いのかわからない」ということにはならない.

数ヶ月前に偶然に会話したベルギー人の自称ホームレスに「ベルギーのシステムでホームレスになるのは不可能なはずなのにどうして?」と訊ねた.そのインテリホームレスは「この社会システムそのものに反対だから」と答えが返ってきた.彼の言う社会システムとは「貨幣システム」を指していた.自ら社会システムを拒否し、IDカード(市民生活の基本、日本の住民票)を取得できるのにしない反社会的な人たちの面倒を見る(面倒を見られることを拒否している場合が多いので、気付かれないように配慮しつつ)非営利団体も数々ある.

私自身は動物愛護と環境問題は、人権と同様に昔から興味ある.ベルギーでは動物の権利を守らせる非営利団体が数多く有り、とても信頼できる存在だ.特別に注意しなくても動物は虐待されず、権利も守られている.この10年で肉の消費が3割減ったという事実や少し前に議会が決めた新しい動物の権利の条例が今日から施行された.サーカスなどで象を飼う場合、今までは100平米の専用地が必要だったのが一気に最低1000平米になった.年末からブリュッセルの中心部で公演をしているベルギー屈指の歴史あるサーカスも12月31日の象の曲芸を最後に象は動物愛護団体に引き取られることになった(テレビのインタビューでオーナーが「最後にお願いしたいのはその象を国外に出さないでほしい.時々会えるように」と訴えていた)このような細かな法律が制定されるのも情熱を持って活動している動物愛護団体のお陰だ.日本では10月末に決まった「ペットショップの幼動物の深夜展示販売禁止」が施行されるのが6月だと言う.なぜ施行までそんなに時間が掛かるのか?
(日本とベルギーの大きな違いの一つに緊急対応のスピードがある)

311の地震津波原発事故から後10日で満10ヶ月が経とうとしている.ネット上では経緯をずっと追いかけていたが、昨晩の「朝生」で改めてびっくりさせられたことや、こちらだったらあり得ないことは:

・被災者が自分で判断し、地元に留まるか移住するか決める.その選択があることで、対立が生まれている.専門家達の意見が様々でどれを信用するかは被災者自身.
・農業・漁業関係者は何の補償もされていない.
・東電からの補償は、大変複雑な資料を提出しなければいけない.
・国も地方自治体も被災者達に何の連絡もしなかった.政府とメディアは最初「爆発していない、放射能も出ていない」と言い、防げたはずの被爆をさせた.マスコミは最初に逃げた.
放射線を計らずに「安全です」と宣言.そして外国に渡ったお茶やミルクなどから汚染が出てしまった.初期には計測することを禁止した.世界ではもう日本政府は信用されていない(上杉氏)
・上杉氏の「国、東電、行政は今後も絶対に裏切るので、被災者は必ず生活メモを残せ」「マスコミが真実を報道しなかったことは犯罪だ」などの意見の都度に、田原総一郎は遮り反対意見を言った「日本の原発技術は世界最高である」
福島県民は政府や東電に騙されたと思っている.
・検察は原発事故の責任を追求していない

長年に渡り積み上げられ、時代により修正されてきた条例、法律、憲法や調印している国際規約などに則り、社会が成り立っているベルギーでは、昨晩の「朝生」のような討論は行なわれないはずだ.「条例や法律でこうなっているので・・」と速やかな対処が行なわれ、それぞれの地方行政や関係非営利団体が最善の方法で動く.まずい個所が見つかれば、法律などのルールは修正される.先日のベルギー南部の町での「拳銃乱射」事件の対応を見ていても、それは解る.ベルギー(EUも同様)は「基本的人権を守る」ことが最重要であるとされる.そのための法律や条例がびっしりと有る.だから、そこには抜け穴はない.テクノクラートと呼ばれる思想や感情を除いて、沢山の社会のルールを基に「科学的」に判断し、動く官僚や地方行政、そして非営利団体がこの国を動かしている、と理解している.一番重要なことは、汚職やねつ造や偽装などの抜け穴ができないシステムになっていること.

この社会から日本を見ると、野生の社会のように見える.憲法や法律、条例や調印している国際規約などは「立て前」で如何様にも解釈する.アヤフヤで霞が懸かっている.法律やルールより、義理人情が優先する.そして、人々の生活や幸福より企業が優先する.その上、ジャーナリズム精神を持っているマスコミは皆無.

横浜で飲食店を経営していたころ、数名の30歳前後の若者達に「なぜこの国はだれも法律を守らないのか」と訊いた時「えっ、法律って守るものなんですか?破るものだと思っていましたよ〜」と即答された.そしてベルギーの話をしたら「そんなに沢山法律や条例を作ったら、自由がなくて窮屈じゃないですか?」と訊かれた.私はペット産業のような動物虐待や福島の被災者を含めた何かの被害者たちの泣き寝入りの話を聞きたくない.ホームレスや行き場の無い若者達の自殺やイジメの話も聞きたくない.そういう社会の底辺にいる人々や声を挙げられない動物という弱者を徹底的に守ろうとする社会(例えばここベルギー)の方が「本当の自由や人や生き物の尊厳」が大切にされ、ひいては幸福へと繋がると思っている.

多分沢山の人々は「普通に働いて、普通に生活したい」と思っているはず.そういう「普通」の生活を守る為に法律があり、政府や官僚の暴政を阻止するために憲法が有るのではないだろうか.