人々が必要なのはお金ではなく、衣食住.そしてきれいな水と空気と美しい自然と安全で楽しい社会.「幸せになるためには、お金を稼がなければいけない」というのは、大企業が寄り添った権力が、人々をそのように誘導したためではないだろうか?

Noro153+EN2011-08-09


この10年ぐらいで、沢山の人々が「貨幣社会」の弊害に気付き、社会を変えようとしている.お金儲けしか頭にない人なら、それで大金を稼いだはずなのに、あえて無料にした例をいくつか挙げてみる.

★まず最初に、今はだれでもが当たり前のように使っているネット「www」のシステムは、欧州原子核研究所・CERN にいたTim Bernards Leeが開発し、1993年に無料で誰にでも解放することを発表した.この意味はとても大きい.

★そして、フィンランド人のLinus Torvalds が、リナックスというシステムを無料で誰でもが使えるし、改良することができる「オープンソース」という概念がコンピューターの世界で始まった.

オープンソースという概念ができる前は(今でも)マイクロソフトなどのように作ったソフトのライセンスでぼろ儲けをすることが、今ではもう古い考えになってしまった.マイクロソフトは20世紀の典型的な大企業で、競争相手が出てくるとことごとく潰し、世界のパソコンは独占状態だった.少し前まで、ビジネスと個人ユーザーはマイクロソフト、出版やアート系はアップルというような住み分け状態だったが、リナックスの登場で状況は変わりつつある.(リナックスをベースにした『もちろん無料の』UBUNTUというOSが一般的で、何百ものソフトが無料でダウンロードできる.ビジネスにもリナックスは最高だと聞いている.私も長年のマックから移行を考えている)

20世紀のビジネスの典型として例を挙げると、出版界.つい数年前まで雑誌や本を作るには、クォークエクスプレスという非常に高いソフトが独占していた.印刷屋はこれでレイアウトしたものだけを印刷し、ソフト一つが50万円近くした.鍵がついていて一つのソフトを二つのマックで使うことは不可能.ちょっとしたアップグレードも高く、一つの会社に50台のマックがあると中々アップグレードはできなかった.2000年中頃になるとアドビー社がクォークに対抗でき、もっとずっと安いソフト、インデザインを出し、クォークの独占が終わった.現在では無料のScribusというリナックス、マック、ウィンドーズで使えるデスクトップパブリッシング用ソフトが人気があるようだ.という訳で、現在では本当にだれでもがグラフィックソフトを使い、ポスターやチラシ、雑誌まで作れるようになった.(印刷物自体の需要が減ったことは別にして)

★百科事典も良い例で、私が子供のころはブリタニカなどの百科事典は数十万円という高価なもので、みな月賦で買った.そして、それを本棚に飾っておくのも一つのステイタスだったかもしれない.10年前にウィキペディアという、ネット上で誰でもが無料で回覧も編集もできるという画期的な百科事典が始まった.それまでは、紙の代わりにCDで百科事典を買った.ブリタニカのように歴史のある企業にとっては、ウィキペディアなどの無料の百科事典の登場は面白くないので、あらゆる批判や嫌がらせをしていたが、今やネット使用者でウィキペディアを見ない人はいないほど当たり前になった.英語だけで4百万の項目、全部で1900万の記事が230カ国以上の言語であるそうだ.普通の百科事典、例えばブリタニカの項目は多くて7万だという.間違いを見つけり、新しい項目はだれでも編集可能.それは「大衆の相互協力と大衆の叡智」オープンソースの精神がこれだと思う.ブリタニカは信用できるが、ウィキペディアは信用できないというのも迷信のようだ.数年前に何人もの人たちが、わざと間違ったことを書き、何時間で修正されたかという実験さえ行なわれているという記事を読んだことがある.もちろん数分、数時間で修正されたという.ブリタニカにも間違いはある上、印刷やCD(DVD)にしてしまった時点で、訂正はできない.ネット上のものは、いつでもすぐに修正可能なのも将来性がある.

★無料のWWWとオープンソース思想は世界中の人々に影響を与えている.もう一つ無料の話は、やはり10年ほど前に考案された「コーチサーフィン」という無料で世界中の人を自宅に泊めたり、他人宅に泊まったりするという楽しいシステム.この話は、クロアチアのザダールのユースホステルで知り合ったフィンランド人の男の子から聞いた話.一応ネットでも見たが、とても良いシステムだと思う.サイトには、家族5人でフランス中を「コーチサーフィン」した話とか、泊めてあげた話とか・・・ 欧州では昔から「ホームエクスチェンジ」というシステムがあって、1週間とか数ヶ月、なかには数年も住まいを無料で交換する人たちや仲介会社があったりするので、ネットが普及したお陰で幾つかのサイトがそのような「コーチサーフィン」なるものを主催している.コーチとはソファのことで、要するにちゃんとしたベッドや寝室ではなく、ソファに寝られれば良いという発想.約束は、泊める人も泊まる人も一切の金銭のやり取りはできない.3百万人以上の登録者、248カ国、8万2千都市が登録されているという.泊まり歩くだけ、泊めるだけでもOK.

★ベルギー、イタリア、フランス(多分もっと多くの国々)では、スーパーなどで廃棄処分になる食料をもらい受け、ボランティアたちが無料のレストランをオープンし、お腹がすいている人々に食べてもらうという運動も盛んだ.

★ベルギーには古着屋さんというのはほとんどなくて、その代わり古着は必要な人々へ無料であげている.昔の大家さんがそのボランティアでそのシステムを詳しく聞いたことがある.

★もう一つベルギーの話.ブリュッセルでは、30分無料で借りられる自転車が、約300カ所、数百メートルおきに自転車置き場にある.30分で一旦返してすぐまた借りれば一日中でもただで乗っていられる.安い金額を払えば24時間、7日間とかも借りられるらしい.(上の写真はその自転車置き場の地図の一部)

★ベルギーの高速道路は完全無料だ.昔、有料にする案もあったらしいが、お金のやり取りをする設備や人件費を考えると無料にした方が良いとなり現在でも無料.

スペインや他の欧州の都市では、クルマの所有を辞めると生涯市内の公共の交通機関を無料にするということをやっている.

★北欧ではインターネット接続は「人権」の一つとなっているようだ.ベルギーではお金は払うが、様々な場所、図書館などでは無料でパソコンとインターネットが使える.ベルギーもネット接続は人権の一つなので、接続料を払わなくても(少なくとも数週間は)接続を切ることはしない.その代わり速度を遅くする.

★世界中の沢山の人々は知らない土地へボランティアの仕事をしに行く.お金は貰わないが、衣食住を保障してくれるし、語学や人の役に立つことや環境保護などお金では得られない経験をすることができる.

★他には、福祉国家なので無料のものは沢山ある.例えば、70歳以上の人には週に一回足を洗って爪を切る看護婦が来る.必要な人には毎日看護婦が身体を洗いにくる.買い物や話し相手が来る・・・と際限のない至れり尽くせりがあるが、私の情報は2000年以前なので今は変わったかもしれないし、あくまでも税金を使った無料もの.... それに教育も無料.教育や福祉や医療関係でさえも金儲けの対象になってしまう社会は尋常ではない・・・

「無料」ということを見ていくと、反対するのは企業だ.リナックスやグーグルなど無料でだれにでも、という思想がマイクロソフトなどを潰すことになるだろうし、クルマを辞めると公共の交通機関を無料にするというアイディアもクルマ企業には痛手になる.無料で泊まりっこするのはホテル業が困る.しかし、21世紀の世界は確実に「無料」の方向へ行っているし、他人より多くお金を稼ぐことが幸せへの道というのも迷信でしかない、と私は思う.

お金が絡むから詐欺や犯罪、癒着などが出てくるし、強欲な人々が集まってくる.多分最初に書いたWWWの欧州原子核研究所もそう思ったのではないか?

最後に:
この10年ほどとても気に入っているのが「ストリートアート・グラフィティ」と言われるアート.イタリアが発祥の地と言われているが、これも「無料でだれにでも鑑賞してほしい」という発想だ.もちろんその根幹には「エスタブリッシュメント・組織化」した芸術に対する反抗でもある.より自由を求める芸術家としては当然の行為だと思っている.音楽や芸術も金儲けや権威が目的だと良いものはできない.なぜかというと、消費者を意識した商業主義に芸術的価値のあるものは見当たらないから.ある場所に世界のストリートアートを集めている.参考のために:http://www.scoop.it/t/world-of-street-outdoor-arts

追記:日本のような大量消費資本主義のど真ん中で生まれ育った人々は、多分それ以外の社会は想像できないかもしれないが、欧州では次々に無料が増えている.あなたが働く目的はお金、それとも衣食住の安定?日本が経験した70〜80年代のような経済は、絶対に戻ってきません.もう地球に限界がきているから.だったら、別の生き方を考えても良いのでは?世界には金の亡者になるよりも楽しいことが沢山あるから.